TOPIX

2007年4月1日

派遣という働き方

弁護士 船橋 恵子

「フリーター」という言葉も、いつの間にか耳になじんできました。

従来、「正社員か、パート・アルバイトか」という区別で足りていた就業形態ですが、フリーター人口の増加が象徴するように、多様化・流動化しているように思います。

この一ヶ月ほどの間に、何名か、派遣で働いている方のお話をお聞きしたので、今回は、「派遣」を取り上げてみたいと思います。

1 「派遣で働く」とは?

通常、労働者は、雇用主の指揮命令に従って働きます。

ところが、派遣労働の場合は、事業主Aと事業主Bが、「Aの下で働いているCを、Bの下に派遣する」ことを合意し(労働者派遣契約といいます)、以後、CはBの指揮命令に従って働きます。

労働者にとって、雇用主は変わりませんが、指揮命令を受ける相手が変わるわけです。

2 なぜ「派遣」は増えているのか?

派遣労働者は、毎年増加しています。毎年10%以上の割合で増加しています。なぜ、増えているのでしょうか。

派遣労働は、昔から認められていたわけではありません。

派遣元(上の例でいえば、A)や、派遣先(同じくB)が、それぞれ、賃金をいわば「ピンはね」する危険があるとして、全面的に禁止されていました。

しかし、「高い技能や技術を持つ労働者を、できる限り速やかに雇いたい。」という業界の強い要望を受けて、1985年、「例外的に」派遣労働を認める労働者派遣法が制定されました。

それから20年、派遣業種の追加や派遣期間の延長といった改正を重ね、この法律は、「原則的に」派遣労働を認めるものへと変貌を遂げました。

近年、急激に、派遣労働者の募集広告や、派遣(元)会社の宣伝が増えてきたのは、このような背景があるからです。

派遣先の会社としても、終身雇用で年功序列型賃金(変わりつつありますが)の正社員よりも、期間の定めがある派遣労働者を雇用したいと望むため、派遣労働者は、増加し続けているのです。

3 派遣労働者の保護

派遣で働く人たちも、当然に、労働者としての権利を有しています。

ただ、派遣元と派遣先という二つの使用者が相手となるため、責任の所在が曖昧にされ、トラブルになるケースもあるようです。

  • (1)たとえば、派遣期間が「11月30日まで」と決まっていたにもかかわらず、派遣先から突然、「来週から来なくていいよ。」と言われたケースがあります。

    労働者からすれば、「次の仕事は12月から。11月中に段取りをつければよい。」と考えていたわけで、突然契約を打ち切られると非常に困ってしまいます。

    結論から言えば、派遣先が、期間の途中で、一方的に、理由もなく契約を打ち切ることはできません。

    また、派遣元が、「派遣先がいらないと言っているので、こちらも、契約を打ち切ります。」として、労働者を解雇することもできません。

    期間途中の解雇には、やむをえない合理的な理由が必要だからです。「派遣先がいらないと言っている」だけでは、解雇の理由にはならないのです。派遣元は、次の派遣先を探すべきだということになります。

  • (2)また、労働者が「この日に有給休暇をとりたい。」と申し出た場合、派遣先が「その日はだめだ。」と拒否してトラブルになることもあります。

    まず、当然ですが、派遣労働者にも、有給休暇をとる権利が認められています。

    ただ、使用者側は、「事業の正常な運営を妨げる場合」に、有給休暇の時期を変更させることができます。

    とはいえ、ここでいう使用者は、あくまで、派遣元です。

    派遣先は、派遣元に対して、他の労働者を派遣せよということができるだけで、労働者に対して「だめだ。」という権利はないわけです。

「パート・アルバイトや派遣は、常勤の正社員とは違うから、保護も弱い。」といった漠然としたイメージを持ちがちではないでしょうか。

就業形態が、権利の範囲や保護の程度を左右するということではありません。就業形態が多様化しているときだからこそ、気をつけておくべきことのように思います。

TOPIX一覧へ戻る

このページの先頭へ